脂肪腫の原因
脂肪腫の発生メカニズムは、現在も完全には解明されていません。しかし、染色体異常が多く見られることから、遺伝子の関与が疑われています。通常、成熟した脂肪細胞は増殖しませんが、毛細血管周辺の未分化細胞に遺伝子異常が生じ、それにより脂肪細胞の分化・増殖が進行し、脂肪腫が発生すると考えられています。
その他、発生リスクを高める要因としては、以下が挙げられます。
ただし、これらの要因と脂肪腫の発⽣に関する明確な根拠は、現時点では確認されていません。
脂肪腫は、特に服の摩擦などの刺激を受けやすい部位に発生しやすい傾向があります。
脂肪腫の主な種類・症状
良性腫瘍の一種である脂肪腫は、主に皮下組織に発生します。
多くの場合、症状は軽度ですが、進行すると皮膚の隆起が見られることがあります。通常、皮膚の変色やかゆみは伴わないものの、まれに痛みや違和感を引き起こす場合があり、注意が必要です。
以下に、脂肪腫の主な種類や特徴についてご紹介します。
線維脂肪腫
線維脂肪腫は、脂肪細胞に膠原線維が多く含まれ、さらに被膜に包まれた脂肪腫です。線維脂肪腫は、脂肪腫の中で最も一般的な病変とされています。
通常、痛みや皮膚の変色を伴わない柔らかな触感のしこりとして皮下に現れます。
主に、首の後ろや上背部など、圧迫や刺激を受けやすい部位に好発しやすいのが特徴です。放置すると、しこりが徐々に大きくなることがあります。
背中など、目立ちにくい部位では、しこりが大きくなってから初めて気づき、医療機関を受診するケースもよく見られます。
筋脂肪腫
筋脂肪腫とは、皮膚の深い層に発生し、筋肉内に存在することが多い脂肪腫です。特に首の後ろに好発し、被膜が不明瞭なケースも珍しくありません。
筋肉内に発生するため、完全に摘出するのが難しい脂肪腫といえます。手術による摘出を行う際には、脂肪腫を取り除くために切開部が大きくなる場合があります。
血管脂肪腫
血管脂肪腫とは、1センチほどの小さな硬いしこりとして現れることが多い脂肪腫です。全身に発生する可能性があり、上肢や下肢、背中など、さまざまな部位に多発する場合もあります。
血管脂肪腫の特徴として、成熟した脂肪細胞の間に毛細血管が多く存在しており、これにより痛みを伴うことがしばしばあります。痛みは、自発痛(触れなくても痛みが現れる)や圧痛(押すときに感じる痛み)を伴うことが特徴です。
脂肪腫の検査・診断
脂肪腫の検査・診断は、まず問診、視診・触診によって腫瘍の状態を確認します。その後、超音波(エコー)検査による画像診断を行い、脂肪腫の詳細な状態を確認します。
当院では、超音波検査を中心に診断を行っていますが、場合によってはCT検査やMRIも使用されます。
特に大きくなった腫瘍や深部に位置する腫瘍については、より精密な検査が必要となることがあり、その際は他の医療機関でCT検査やMRI検査を受けていただく場合があります。
脂肪腫は早期発見・早期治療が重要
脂肪腫は通常、痛みを伴わない良性腫瘍ですが、放置すると大きくなり、摘出手術が難しくなる傾向にあります。進行した脂肪腫の治療では、切開部位を広くする必要があり、手術後の傷が目立つ可能性があります。また、費用面での負担が増える可能性もあります。
さらに、小さなしこりでも、まれに悪性腫瘍や脂肪腫以外の疾患である可能性があるため、早期に適切な診断を受けることが大切です。
脂肪腫は、内服薬や外用薬では治癒できず、内容物が液状ではないため、注射器による吸引もできません。完治を目指すためには、手術による摘出が必要です。
もし小さなしこりに気づいたら、なるべく早めに専門の医師の診察を受けることをおすすめします。
脂肪腫の治療
脂肪腫の主な治療法は、外科手術による摘出です。手術では、腫瘍が部分的に残ると再発のリスクが高まるため、腫瘍を包む膜ごと完全に除去することが重要です。
脂肪腫は良性腫瘍であり、通常は緩やかに成長しますが、まれに悪性化する可能性があります。特に、急速に成長して大きくなった脂肪腫には注意が必要です。
必要に応じて、脂肪腫の切除後に病理組織検査を実施し、悪性所見がないかを確認します。
脂肪腫の手術について
脂肪腫を摘出する手術では、まず腫瘍上部の皮膚を切開し、周囲組織からの剥離を進め、被膜の損傷を避けつつ一塊として摘出します。摘出後は十分な止血処置を行い、血腫のリスクを予防します。最後に圧迫固定を行い、必要に応じてドレーンを留置したら手術は終了です。ドレーンには、切除部位に血液がたまるのを防ぐ役割があります。
摘出手術による再発の可能性は低く、手術後の傷あとを最小限に抑えるため、可能な限り細かい縫合を心がけています。
脂肪腫の手術の流れ
STEP1治療部位のマーキング
手術をする前に、肩の大きな脂肪腫(リポーマ)を確認します。そして脂肪腫の周辺と切開ラインをペンでマーキングします。
STEP2麻酔注射と最小限の切開
局所麻酔の注射後、切開を行います。切開する長さは、腫瘍の約3分の2が目安です。
当院では、麻酔注射の痛みを軽減するため、極細針や特殊な薬剤を使用しています。これにより、注射が苦手な方でも安心して治療を受けていただけます。
また、形成外科専門医が皮膚切開部を慎重にデザインし、傷あとが目立たないよう心がけています。
STEP3丁寧な剥離・腫瘍の摘出
切開後、脂肪腫を包んでいる薄い膜を見つけます。その後、指先(用手剥離)とピンセットによって慎重に剥離し、膜ごと摘出します。
STEP4止血と縫合
脂肪腫を取り除いた箇所には空洞ができるため、血液が蓄積しないように止血処置を行います。
状況によってはドレーンを挿入し、余分な血液を外部に排出することもあります。
手術の最後には、切開部を丁寧に縫合します。
伸縮テープとガーゼで圧迫固定を行い、傷口をしっかりと保護したら、手術は終了です。
STEP05抜糸
手術後、1~2週間が経過したら、抜糸を行います。
当院では、術後の傷を早く治し、目立ちにくくするために、細い糸を用いて縫合し、縫合部が露出しない方法を採用しています。
STEP06創部の皮膚の治癒
抜糸後、約1週間が経過すると、赤みが徐々に引き、皮膚が少しずつ再生し、正常な状態に近づきます。
動画解説|血管脂肪腫の日帰り手術
当院の脂肪腫治療の特徴
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局所麻酔では極細針を使用して痛みを緩和
当院では、形成外科専門医が皮膚の切開部のデザインを行い、傷跡が目立たないよう、最小限の切開を心がけています。治療は局所麻酔を使用し、日帰り手術で行うことで、患者様への負担を軽減しています。
また、麻酔には極細針を使用し、痛みを和らげるために麻酔薬の配合にも工夫を凝らしています。
当院の麻酔薬の工夫
当院では、局所麻酔の際に痛みを最小限に抑えるための工夫を行っています。
具体的には、一般的に使用される1%または0.5%のエピネフリン入りキシロカインに、7%のメイロンを加えています。これにより、通常は酸性(pH 3.5~5)に傾く麻酔薬のpHを中性(pH 7)に近づけることができます。
pHを中性に近づけることで、麻酔注入時の不快感や痛みを軽減する効果があります。