- 良性腫瘍とは
- 表皮母斑(ひょうひぼはん)
- 粉瘤(アテローム)
- 皮様嚢腫(ひようのうしゅ)
- 稗粒腫(はいりゅうしゅ)
- 汗管腫(かんかんしゅ)
- 脂腺母斑(しせんぼはん)
- 石灰化上皮腫(毛母腫)
- ほくろ
- 扁平母斑(へんぺいぼはん)
- 神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
- 神経線維腫(しんけいせんいしゅ)
- イボ
- 肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
- ケロイド
- 脂肪腫(リポーマ)
- 皮膚平滑筋腫(ひふへいかつきんしゅ)
- 外骨腫(がいこつしゅ)
- 毛細血管拡張性肉芽(もうさいけっかんかくちょうせいにくげ)
- グロムス腫瘍(ぐろむすしゅよう)
- ガングリオン
- 毛細血管奇形(もうさいけっかんきけい)
- 静脈奇形(じょうみゃくきけい)
- 動静脈奇形(どうじょうみゃくきけい)
- リンパ管奇形(リンパ管腫)
- 乳児血管腫(にゅうじけっかんしゅ)・先天性血管腫(せんてんせいけっかんしゅ)
良性腫瘍とは
皮膚やその下層の組織において、細胞が異常に増殖することで形成される腫瘍を「皮膚腫瘍」と呼びます。これは、患者さんが「できもの」や「しこり」として気づく皮膚の異常を指します。
皮膚腫瘍にはさまざまな形状や色があり、隆起したものや平坦なもの、また暗褐色や赤色のものなどがあります。先天性のものもあれば、後天的に発生する場合もあります。
皮膚腫瘍は「良性」と「悪性」の2種類に分類されます。良性腫瘍は成長が抑制され、腫瘍細胞の転移がみられないものです。一方、悪性腫瘍は成長が制御できず、周囲の組織に浸潤したり、体の他の部位に転移したりする可能性があります。
多くの皮膚腫瘍は良性であり、放置しても生命に直接関わることはありません。ただし、美容面での問題や長期間にわたる機能障害を引き起こす可能性があります。まれに悪性化することもあるため、皮膚腫瘍を発見した際には、医師の診断を受けることが重要です。
確定診断には組織検査(皮膚生検検査)が必要ですが、ダーモスコピー検査によって多くの腫瘍を識別することが可能です。
表皮母斑(ひょうひぼはん)
表皮母斑は、褐色でザラザラとしたあざの一種で、主に顔や首、体、手足に帯状に現れます。これは表皮の過形成が原因とされ、通常は出生時や生後2~3か月頃に発生します。
新生児の約1,000人に1人の割合で発生するとされ、その発症原因は明確には分かっていません。
表皮母斑は自然に消えることがなく、成長に伴って範囲が広がる傾向があるため、治療が推奨されます。
治療法としては主に外科的手術が用いられ、切除のほか、高周波メス、超音波メス、炭酸ガスレーザーなどを用いて盛り上がった表皮を除去します。除去後の部位は浅い擦り傷のような状態となり、軟膏を使用してケアを行います。
傷の回復には約1週間かかり、治癒後もしばらく赤みが残りますが、時間の経過とともに目立たなくなります。
粉瘤(アテローム)
粉瘤(アテローム)は、皮膚の上皮成分が皮下に入り込むことで袋状の組織が形成される良性腫瘍です。この袋状の組織内には、垢や皮脂といった老廃物が蓄積します。
粉瘤は「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」とも呼ばれ、体のどこにでも発生しますが、特に顔や首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。発生原因は明確にはわかっていませんが、ウイルス感染、外傷、体質などが要因と考えられています。
初期の粉瘤は数ミリ程度の小さな隆起で、ニキビやしこりと誤認されることがありますが、ニキビとは異なり、自然治癒することはありません。放置すると徐々に大きくなり、悪臭を放ったり、炎症を起こしたりするリスクがあります。
自己処置は危険で、内容物を無理に押し出そうとすると症状が悪化し、脂肪組織内に内容物が広がることで、症状が慢性化する可能性があります。粉瘤を発見した場合は、早期に医療機関を受診することが推奨されます。
皮様嚢腫(ひようのうしゅ)
皮様嚢腫は、目や鼻の周囲、耳の後ろ、口腔底などの顔面に好発する円形の良性腫瘍です。特に眼窩上外側に発生しやすく、出生後すぐに発見されるケースもありますが、ゆっくりと成長し、幼少期以降に気づかれることも珍しくありません。
この腫瘍は全身に発生する可能性がありますが、皮膚にできるものは腹膜や卵巣に生じるものとは異なり、皮膚成分のみで構成されています。皮膚に現れるものは「皮下皮様嚢腫」と呼ばれ、他の部位に生じる皮様嚢腫とは区別されています。
皮様嚢腫は通常、無痛性で、皮膚面から半球状に隆起し、骨膜と癒着していることが多いため、可動性が制限される場合があります。また、腫瘍が骨を圧迫することで骨が陥凹し、変形することもあります。嚢腫内には皮脂に富む角質や毛髪が含まれ、チーズやクリーム状の質感を持っています。
治療は原則として外科的摘出が行われ、皮下に限局している場合には単純摘出により再発のリスクは低く、良好な結果が期待されます。ただし、脳内との連絡が疑われる場合は、CTやMRI検査が必要となり、適切な手術方法が選択されます。場合によっては開頭手術が必要になることもあります。
稗粒腫(はいりゅうしゅ)
稗粒腫は、1〜3ミリほどの大きさで現れる半球状の丘疹で、下まぶたの表皮に発生することが多い良性腫瘍です。見た目は常色または白色がかっており、内部には角質が含まれています。
稗粒腫には、小児や思春期以降の女性の顔に好発する原発性と、水疱症、熱傷瘢痕、放射線皮膚炎などの後に生じる続発性の2種類があります。
多くの稗粒腫は自然治癒が期待できるため、経過観察が選択されます。しかし、若い女性に発生した場合、美容的な理由から治療を希望するケースもあります。
治療法としては、皮内注射針を用いて微小切開し、内容物を摘出する方法や、炭酸ガスレーザーを用いて嚢腫壁ごと蒸散させる方法があります。
汗管腫(かんかんしゅ)
汗管腫は、主に女性にみられる皮膚病変で、エクリン汗腺の細胞が増殖することで発生します。
1〜2ミリほどの小さな肌色の隆起が複数現れ、場合によっては癒合するのが特徴です。好発部位は下まぶたですが、頬や胸部、腹部、外陰部にも発生することがあります。
汗管腫は特に自覚症状を引き起こすことはありませんが、自然治癒することはまれです。顔面に発生した場合、見た目の問題から治療が希望されることがあり、その場合は炭酸ガスレーザーなどが用いられます。
脂腺母斑(しせんぼはん)
脂腺母斑は、頭部や顔面に好発する先天性の皮膚異常です。初期段階では皮膚と同じ色で目立ちにくく、頭部では脱毛斑のような見た目となります。表面の質感はザラザラしていることが多いですが、平坦な場合もあります。
脂腺母斑は時間の経過とともに変化し、以下の3つの期に分類されます。
- 第1期: 出生時には円形脱毛症様の蒼白または黄色調の母斑として現れます。
- 第2期: 年齢とともに母斑が隆起し、イボ状になって褐色がかり始めます。
- 第3期: 思春期以降、これらの症状が顕著になり、30歳以降にはまれに腫瘍化や悪性化のリスクが生じることがあります。
こうした進行を防ぐためには、小中学生以降での外科的切除が推奨されます。
脂腺母斑を完全に切除することで、続発性の腫瘍発生リスクを低減することが可能です。ただし、切除後には縫合部に線状の瘢痕や脱毛が残ることがあります。また、広範囲にわたる切除では植皮術が必要になることがあり、その場合、植皮部には色素沈着や拘縮が、採皮部には瘢痕が残る可能性があります。
石灰化上皮腫(毛母腫)
石灰化上皮腫は、毛穴の奥にある「毛母細胞」が石灰化することで発生する皮下腫瘍です。皮下に石のように硬いしこりができ、主に顔や首、腕などに好発します。多くの場合、その大きさは0.5~3センチ程度です。水疱(水ぶくれ)のような外見を持ち、腫瘍が大きくなると、皮膚が薄い部分では黄白色や青黒い色調に変化することがあります。
通常は単発で発生しますが、まれに多発することがあり、その場合は筋緊張性ジストロフィーを合併する可能性があります。
石灰化上皮腫は基本的に無症状ですが、しこりを圧迫すると痛みやかゆみが現れることがあります。細菌感染や異物反応が起こると症状が悪化し、痛みやかゆみが増すだけでなく、皮膚に穴が開くこともあります。そのような場合は、速やかな手術による除去が推奨されます。
発生原因は明確ではありませんが、石灰化上皮腫は子どもに多く見られ、男性よりも女性にやや多い傾向があります。その形状から、粉瘤や脂肪腫と誤認されることもあります。
ほくろ
ほくろは良性腫瘍の一種で、皮膚にメラノサイト(メラニン色素を作る細胞)が集まることで形成される黒色の斑点です。ほくろには、平坦なものや隆起したものがあり、色調も茶色から黒色までさまざまで、形状も円形や楕円形など多様です。
ほくろは誰にでもみられ、時には個性や魅力の一部として捉えられることもあります。基本的には良性腫瘍ですが、まれに悪性化することがあるため、ほくろに変化がみられる場合は注意が必要です。
皮膚がんとほくろを鑑別するのは難しいため、医師は患者様の症状や状態を詳しく確認したうえで検査を行います。ダーモスコピーと呼ばれる拡大鏡を使った検査で悪性の疑いが強い場合は、確定診断のために外科的切除と病理検査が行われます。
もしほくろに変化が見られたり、皮膚がんの特徴に似ていると感じたりした場合は、早めの医療機関への受診をおすすめします。
扁平母斑(へんぺいぼはん)
扁平母斑は、皮膚の表層部でメラニンが増加することで形成される茶色のあざです。この母斑の特徴として、表皮の肥厚と表皮突起が見られますが、ほくろのように盛り上がることはありません。そのため、「扁平母斑」と呼ばれています。見た目がミルクコーヒーのような色をしていることから、「カフェオレ斑」とも呼ばれます。
出生時や生後早期に現れることが多くなっていますが、思春期になってから発生するケースもあり、その場合は「遅発性扁平母斑」と呼ばれます。
先天性・遅発性ともに扁平母斑が悪性化するリスクは低いため、治療は主に美容的な改善を目的として行われます。治療方法としては、レーザー治療が一般的です。
神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
神経鞘腫は、神経を包んでいる神経鞘(神経のさや)から発生する良性腫瘍です。末梢神経に存在するシュワン(Schwann)細胞が腫瘍化することから、「シュワン細胞腫」とも呼ばれています。
多くの場合、皮下組織や筋肉などの軟部組織に発生し、弾力があり硬い球状の腫瘤として見られます。また、脳や脊髄、消化管などに発生することもあります。
症状は発生部位によって異なりますが、皮下に発生した場合、腫瘤が圧迫されることで痛みが生じることがあります。このような場合には、外科的手術による治療が検討されます。
特に大きな神経の場合は、術後に神経障害が生じるリスクがあるため、細心の注意が必要です。手術時には拡大鏡を用いて、神経と腫瘍を慎重に分離しながら摘出を行います。
神経線維腫(しんけいせんいしゅ)
神経線維腫は、皮膚や皮下組織に発生する腫瘍で、大きさはさまざまです。色調は肌色から薄い赤色まで幅があり、触れると柔らかい感触を持つのが特徴です。
神経線維腫は、思春期頃から徐々に現れはじめ、年齢とともに数が増加する傾向があります。単発性と多発性があり、多発性の場合は「神経線維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)」の可能性が考えられます。
神経線維腫は良性腫瘍であり、悪性化のリスクはほとんどなく、痛みなどの症状も通常は伴いません。ただし、外見上の理由で手術による摘出を希望される患者様も多く、外科的切除が一般的な治療法として行われます。
イボ
イボは、皮膚表面に数ミリから数センチ程度の大きさで盛り上がってできる「できもの」です。ウイルス感染や加齢など、さまざまな原因で発生し、その形状や外観は多岐にわたります。
一部のイボは炎症を引き起こしたり、日常生活に支障をきたすことがあります。また、徐々に大きくなるタイプのイボもあり、放置すると治療が難しくなる場合があります。そのため、気になるイボがある場合は、早めに医療機関にご相談いただくことをおすすめします。
イボの主な種類
イボ(尋常性疣贅:しんじょうせいゆうぜい)
尋常性疣贅は、イボの中で最も一般的なものです。皮膚にできた小さな傷からヒトパピローマウイルス(HPV)が感染し、深層まで広がることが主な原因です。形状はさまざまで、通常は痛みやかゆみがありませんが、放置すると数が増えたり、他の人に感染したりすることがあります。
水イボ(伝染性軟属腫:でんせんせいなんぞくしゅ)
水イボは主に6歳以下の子どもにみられるイボで、ポックスウイルスの感染によって発生します。
光沢のあるドーム状の小さな突起が特徴で、大きさは通常数ミリ以下です。胸部や腹部、脇の下などの皮膚の薄い部位に生じやすく、掻くことで内容物が皮膚に広がり、接触によって他人に感染することがあります。そのため、保育園や幼稚園などの集団生活の場では、早期治療が重要です。
老人性イボ(脂漏性角化症:しろうせいかくかしょう)
老人性イボは、茶色や濃い褐色の円形の腫瘤として現れるイボで、中年層に多くみられますが、20代でも発生することがあります。顔や頭部、胸元などに好発し、加齢とともに数が増える傾向があります。
紫外線による肌の老化が主な原因と考えられており、平らだったシミが盛り上がり、老人性イボに変化することもあります。
首イボ(アクロコルドン)
首イボは、非感染性の老人性イボが首や脇の下、鼠径部などの皮膚が薄く柔らかい部位に生じたものです。小さな隆起として現れますが、特に症状はありません。健康には大きな問題はありませんが、衣服との摩擦やねじれによって痛みや炎症が起こることがあります。
皮膚線維腫
皮膚線維腫は、成人女性の腕や足などの四肢に発生しやすい良性の腫瘍です。大きさは数ミリから2センチ程度で、肌色や褐色の皮膚の盛り上がりとして見られます。触ると皮下にやや硬いしこりが感じられます。
通常、痛みやかゆみなどの自覚症状はありませんが、圧迫すると痛みが生じたり、衣服の擦れによって不快感が生じることがあります。発生原因は不明ですが、虫刺されや傷、遺伝的要因が関係しているとされています。
目立った症状はなく、悪性化の心配もほとんどありませんが、大きくなったり、数が増えたりする場合は注意が必要です。まれにDFSP(隆起性皮膚線維肉腫)という悪性腫瘍の可能性があるため、鑑別診断には病理検査が必要です。
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)
皮膚の傷が治る過程で、肥厚性瘢痕が形成されることがあります。肥厚性瘢痕とは、深い傷や広範囲の損傷、治癒の遅延などが原因でできる瘢痕のことです。通常、皮膚の傷は適切に治癒すれば柔らかく平らな瘢痕になりますが、肥厚性瘢痕の場合は硬く盛り上がった状態になります。肥厚性瘢痕はケロイドと外見が似ていますが、それぞれ別の疾患です。
肥厚性瘢痕の特徴は、以下のとおりです。
- 全身どこにでも発生しやすい
- 瘢痕は傷の範囲内に限局している
- 周囲に炎症性の赤みがない
- 半年から数年程度で扁平化する
特に「瘢痕が傷の範囲内にとどまる点」と「周囲に赤みがない点」は、ケロイドと区別するための重要な指標です。
治療法としては、薬物療法や副腎皮質ステロイド含有テープの使用、圧迫療法などがあります。症状に応じて、外科的切除が選択されることもあります。
ケロイド
ケロイドとは、傷の治癒過程で炎症が長引き、線維成分が過剰に増殖することで発生する病態です。主な症状として、患部とその周辺に赤い腫れや隆起が見られ、痛みやかゆみ、引きつれ感を伴うことがあります。また、見た目の問題を引き起こしやすい点も特徴です。
ケロイドは自然に治ることがなく、元の傷の範囲を超えて広がる可能性があります。特に、前胸部、肩まわり、上腕、耳などに発生しやすい傾向がありますが、手掌、足底、顔面、頭部、下腿には生じにくいとされています。
「ケロイド体質」と呼ばれるように、この症状には個人の体質が大きく影響しています。症状の程度も個人差があり、軽度の隆起で済む方もいれば、重度に盛り上がる方もいます。
ケロイドの原因としては、手術跡や外傷、BCG接種痕、ピアスなどが一般的です。また、ニキビや虫刺されのような小さな傷でも発症することがあります。
脂肪腫(リポーマ)
脂肪腫(リポーマ)は、皮下組織に発生する良性の腫瘍であり、軟部組織にできる良性腫瘍の中で最も頻繁にみられるものです。
発生する部位は全身にわたり、特に背中、肩、頸部(特に後頸部)に多く発生します。
脂肪腫は、皮膚が盛り上がり、柔らかいしこりとして感じられるのが特徴です。痛みやかゆみといった症状は通常ありませんが、その大きさはさまざまで、数ミリ程度の小さなものから10センチ以上に達する大きなものまでさまざまです。
放置すると徐々に大きくなることがあり、特に目立つ部位に発生した場合、見た目に影響を与えることがあります。
発生原因については、肥満や糖尿病、遺伝的要因などが関連している可能性が指摘されていますが、明確な根拠はなく、詳細は不明です。
脂肪腫は、自然治癒や薬物療法では改善せず、内容物が液体状でないため、注射による吸引治療もできません。そのため、完治させるためには摘出手術が必要です。
脂肪腫を放置して大きくなると、手術の難易度や費用面での負担が増える可能性があります。脂肪腫自体は良性ですが、外見や症状が似ている悪性腫瘍も存在するため、しこりが見つかった場合は早めに専門医の診察を受けることが重要です。
皮膚平滑筋腫(ひふへいかつきんしゅ)
皮膚平滑筋腫は、皮膚内にある平滑筋の組織から発生する良性の腫瘍です。皮膚の表面にしこりや腫瘤として現れ、触れると硬く感じるのが特徴です。また、皮膚の色や質感が変化し、触れたり押したりすると痛みが生じることがあります。
主な分類としては、以下のようなものがあります。
- 立毛筋由来平滑筋腫: 体幹や四肢に小結節として触れます。単発性と多発性があります。
- 陰部平滑筋腫: 大陰唇、会陰、陰茎、乳頭、乳輪部に生じます。
- 血管平滑筋由来平滑筋腫: 下肢伸側に多く、痛みに関してはあるものとないものがあります。
皮膚平滑筋腫の治療は、重症度や腫瘍の大きさなどに基づいて決定されます。症状が軽微で腫瘍が小さい場合は、経過観察を行い、すぐには治療しないこともあります。一方、外科的切除が必要な場合は、良性腫瘍であるため、辺縁切除による摘出が行われます。
複数の腫瘍が発生する多発性の場合、特に痛みを伴う部位に焦点を当て、対症的な切除が行われることがあります。
外骨腫(がいこつしゅ)
外骨腫とは、原発性骨腫瘍の中で最も頻繁にみられる良性腫瘍です。骨の端(骨幹端部)にツノ状の隆起として現れ、軟骨に覆われていることから「骨軟骨腫(こつなんこつしゅ)」とも呼ばれています。主に前額部や頭蓋、爪の下などでよく発生します。
前額部や頭蓋に生じる外骨腫は、痛みを伴うことはほとんどありませんが、見た目の問題から切除を希望する患者も多くいらっしゃいます。
骨にできる腫瘍であるため、治療では手術による摘出が基本となります。手術は局所麻酔下で行い、ツチとノミを使用して腫瘍を慎重に除去します。摘出した組織は病理検査を行い、腫瘍の性質を確認します。
また、形成外科的な技術を用いて創部を丁寧に縫合し、傷あとができるだけ目立たないよう治療を行います。
毛細血管拡張性肉芽(もうさいけっかんかくちょうせいにくげ)
毛細血管拡張性肉芽は、皮膚の小さな傷や細菌感染をきっかけに、毛細血管が拡張・増殖してできる良性の皮膚腫瘍です。
有茎性に盛り上がった鮮紅色から暗赤色の柔らかい腫瘤で、2~3週間で成長が止まり、直径は5ミリから2センチ程度です。痛みやかゆみはありませんが、毛細血管が豊富なため、刺激で出血し潰瘍ができやすいのが特徴で、出血が繰り返されると生活に支障をきたすことがあります。
小児は顔面に、成人は手指、四肢、体幹に好発し、妊娠中に発生しやすいことから女性ホルモン(エストロゲン)との関連が考えられます。
小さな腫瘍はステロイド軟膏で消退することがあり、その他の治療法として炭酸ガスレーザー、電気焼灼、外科的切除があります。
グロムス腫瘍(ぐろむすしゅよう)
グロムス腫瘍とは、血管系に由来する珍しい腫瘍で、紫がかった青色や赤色の小さな腫れとして現れます。手足、特に指先の爪の下や指の腹側に多く発生し、激しい痛みを伴うことが特徴です。ときには脈打つような痛みを感じ、寒さや圧迫によって痛みが増すこともあります。
グロムス腫瘍は、小型のものや爪下にできた場合、目視での判別が難しく、診断が困難なことがあります。その際は、MRI検査が有効で、腫瘍の正確な位置や大きさを確認します。
治療は主に外科的摘出が行われ、爪下にできた場合は爪全体を取り除いてから爪床を縦に切開し、腫瘍にアプローチします。爪床は非常に薄く、慎重な手技が求められるため、腫瘍の切除を丁寧に進めていきます。
ガングリオン
ガングリオンとは、手首の関節包内の滑液(関節の潤滑を助ける液体)が漏れ出し、皮下で袋状の腫瘤を形成することで発生する腫瘍です。
ガングリオンの大きさは米粒程度からピンポン玉ほどまでさまざまで、柔らかいものから硬いものまであります。主に手首の関節周辺に発生しやすいですが、指の付け根の腱鞘にも生じることがあります。
多くの場合、ガングリオンは強い痛みを伴うことはありませんが、まれに神経を圧迫して痛みを引き起こすことがあります。
治療法としては、保存療法や外科的摘出が一般的です。内容物を注射で吸引する方法(穿刺吸引)でも再発が繰り返される場合には、手術による根本的な治療が検討されます。
毛細血管奇形(もうさいけっかんきけい)
毛細血管奇形は、先天性の赤色の平らなあざで、「赤あざ」と呼ばれる病変の中でも代表的な疾患です。以前は「ポートワイン血管腫」「単純性血管腫」「火炎状母斑」などと呼ばれていました。
毛細血管とは、動脈と静脈の間に位置し、皮膚に広がる細く薄い管のことです。この毛細血管が異常に増殖して集まることで毛細血管奇形が発生します。小さな斑点にとどまる場合もあれば、顔面や体幹、四肢など広範囲に及ぶこともあります。自然治癒は期待できず、むしろ時間の経過とともに拡大し、色が濃くなる可能性があります。加齢とともに暗赤色に変化し、中年以降には結節や腫瘍性の隆起が現れることもあります。
治療法としては、症状の程度に応じてレーザー治療や外科的な治療が選択されます。
静脈奇形(じょうみゃくきけい)
静脈奇形は、静脈が拡張して腫瘤を形成し、皮下や筋肉内に大小さまざまな血管腔を作る血液貯留性の病変です。発生部位や大きさはさまざまで、皮膚の表面から青く透けて見えることがあります。
主な症状として、朝起きたときの痛みや、四肢を下げた際に腫れが増大することがあり、これが日常生活に支障をきたすケースもあります。
静脈奇形は先天的な病変であり、自然治癒は見込めません。年齢とともに徐々に大きくなり、特に女性では妊娠期や閉経後に顕著な増大がみられることがあります。
治療法は部位や大きさによって異なり、MRIや超音波検査などの画像診断を通じて適切なアプローチが決定されます。症状に応じて、外科的切除や硬化療法(特殊な薬剤を注入して病変を縮小させる治療法)などが検討されます。
動静脈奇形(どうじょうみゃくきけい)
動静脈奇形は、動脈と静脈の形成異常によって生じる血管性病変で、腫瘤や組織の肥大を引き起こします。通常の血管構造(動脈⇒毛細血管⇒静脈)を経ず、動脈から静脈へ直接血液が流れるため、血流が非常に速くなり、病変内には拡張や蛇行した異常血管が見られます。
初期段階では赤あざや拍動を伴うコブとして現れ、多くの場合、進行性です。病変が進行すると痛みや出血、潰瘍形成などの症状が現れ、さらに過剰な血流が心臓に負担をかける恐れもあります。
動静脈奇形の治療には、完全切除が根本的な治療法とされていますが、大規模な病変では手術中に大量出血のリスクが高まります。そのため、手術前に動脈塞栓術(病変に血液を供給する動脈を塞ぐ処置)を行い、出血リスクを軽減することが推奨される場合があります。
リンパ管奇形(リンパ管腫)
リンパ管奇形は、リンパ管に異常が生じる疾患で、以前は「リンパ管腫」と呼ばれていました。これは血管ではなく、リンパ管に関する奇形です。
拡張したリンパ管の大きさや形態に応じて、嚢胞状、海綿状、単純性、または限局性などの症例があります。多くの場合、先天性であり、胎児期のリンパ管形成時に何らかの異常が発生していると考えられていますが、具体的な原因は明確にはわかっていません。
リンパ管奇形は首や腋窩(脇の下)に発生することが多く、風邪などに伴って炎症(発熱や腫れ、痛み)が生じることがあります。特に首に生じた場合は、気道を圧迫し、呼吸困難を引き起こす可能性があります。重症化すると、呼吸管理が必要になるケースもあります。一方で、無症状の場合もあり、その際は定期的に経過観察が行われます。
症状があり治療が必要な場合は、手術による切除が検討されます。その他の治療法としては以下が挙げられます。
- 特殊な薬剤を用いた硬化療法
- 抗がん剤治療
- インターフェロン療法
- ステロイド療法
- レーザー焼灼法
乳児血管腫(にゅうじけっかんしゅ)・先天性血管腫(せんてんせいけっかんしゅ)
乳児血管腫は、乳幼児に最も多く見られる血管性腫瘍で、「イチゴ状血管腫」とも呼ばれます。見た目がイチゴのように赤く盛り上がっており、血管内皮細胞が一時的に増殖してから、自然に退縮する性質を持つ腫瘍です。
主に以下の3つのタイプがあります。
- 局面型:皮膚表面に増殖するタイプ
- 腫瘤型:皮膚表面とその深部の両方に増殖するタイプ
- 皮下型:皮膚の深部のみに増殖するタイプ
多くの乳児血管腫は、生後数日から数週間以内に発症します。皮下にできることもありますが、ほとんどは鮮やかな赤色の平らな病変として確認されます。通常、1歳頃に最大の大きさとなり、その後徐々に小さくなり、小学校低学年までに自然に消失することが一般的です。
多くの場合、自然退縮が期待できるため治療は不要ですが、大きな腫瘤型では、出血や潰瘍、瘢痕、変形などの問題が生じる可能性があります。その際には治療が必要で、内服薬や色素レーザーが用いられることがあります。
先天性血管腫は、胎生期に増殖のピークを迎えるタイプの血管腫で、出生後に急速に退縮するものと、退縮しないまま残るものがあります。乳児血管腫に比べると発生頻度は低く、まれな疾患です。