先天性耳瘻孔とは
先天性耳瘻孔(せんてんせいじろうこう)とは、生まれつき耳の付け根付近に小さな穴が開いており、皮下に管状や袋状の構造が埋まってしまっている状態を指します。
多くの場合、穴の深さは1~1.5センチ程度ですが、まれに耳の穴まで達するほど深いケースもあります。先天性耳瘻孔は、耳に関連する疾患の中でも比較的頻度が高く、遺伝的な要因が関与しているとされています。
耳は胎児期の発達過程において、複数の組織が癒合して形成されます。しかし、その過程で組織が完全に癒合しない場合、隙間が残り、これが耳瘻孔の原因になると考えられています。
先天性耳瘻孔の症状
多くの先天性耳瘻孔は、特に目立った症状を示さないとされています。しかし、一部では、穴からチーズ様の異臭を放つ分泌物(垢や皮脂など)が出ることがあります。皮下にある管状や袋状の構造に分泌物が溜まると、細菌感染のリスクが高まります。感染が起こると、以下のような症状が現れることがあります。
- 腫れ
- 痛み
- 熱感
- かゆみ
慢性化すると、細菌感染を繰り返し、症状が悪化する可能性があります。また、新たに別の部位に開口部が形成されたり、瘻管が分岐して症状が広がることもあります。さらに、耳の前部や後部に膿瘍(不良肉芽)が形成されることもあります。
感染した場合は、抗生剤による治療が必要です。また、腫れた部分の切開や排膿が必要になることもあります。
先天性耳瘻孔の治療
無症状で感染歴がない耳瘻孔の場合、特に治療の必要はありません。しかし、耳瘻孔は自然に治癒することはなく、痛みや膿、においなどの症状がみられる場合には治療が必要です。特に、感染の既往がある場合は、繰り返し感染する可能性が高いため、手術による摘出が推奨されます。
手術は「先天性耳瘻孔摘出術」という、瘻孔を完全に除去する方法で行われます。皮膚の欠損を最小限に抑えるため、術後の傷跡は時間とともに目立たなくなります。炎症が強く、頻繁に感染を繰り返す場合には、手術前に抗生剤などで炎症を抑えることが必要です。
成人の場合、局所麻酔による日帰り手術が可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要となることが多いです。