粉瘤手術の「くり抜き法」とは?痛み・傷跡の残り方の違い

粉瘤のくり抜き法は、粉瘤の中心に小さな穴を開けて、内容物と再発の元となる袋を取り出す手術法です。
傷が小さく済みやすく、術後の回復も早いため、顔や首、おしりなど目立つ部位にできた粉瘤や、できるだけ跡を残したくない方に選ばれています。
当院でも、粉瘤の大きさ・状態・患者さまのご希望に合わせて、くり抜き法を積極的に採用しています。
今回はくり抜き法の特徴と切開法との違いを中心に解説していきます。
粉瘤治療のくり抜き法とは?

くり抜き法は、皮膚トレパン(デルマパンチ)と呼ばれる円形の器具で皮膚を小さく丸くくり抜き、そこから粉瘤の中身と袋を順番に引き出す治療法です。

メスで大きく切開する方法とは異なり、粉瘤を小さくしてから取り出すため傷を最小限に抑えられるのが最大の特徴です。

開ける穴の大きさは粉瘤のサイズにもよりますが、非常に小さく、縫わずに済むことも多いため、術後の違和感が少なく、通院の手間も最小限で済みます。皮膚トレパンは1mm径のものから10mmを超えるものまで選択でき、粉瘤の大きさに合わせて使用されます。
術後の回復が早く、仕事や家事にも早く復帰できるケースが多いため、「早く治したい」「目立たないように治したい」という方に適しています。
当院でも、顔・首・背中・おしりなど、見える場所や摩擦の多い部位にできた粉瘤については、患者さまのご希望に応じてくり抜き法を積極的にご提案しています。
特に「なるべく傷を残したくない」という声は非常に多く、再発リスクや部位の状態を見ながら、最適な方法をご案内しています。
当院の手術では9割以上の方がくり抜き法の適応となります。とにかく傷を小さく手術を終えたい方、手術の負担を小さくしたい方向けになるからです。
粉瘤治療のくり抜き法の再発が多いと言われる理由

そんなくり抜き法ですが「取り残しが多い」「再発しやすい」「術後出血を起こしやすい」などデメリットを主張する意見が散見されますが本当でしょうか。
- 皮膚科でのくり抜き法を行っている
- 適さない部位にも行ってる
- 再発を繰り返す粉瘤に行っている
それぞれ詳しく解説してまいります。
皮膚科でのくり抜き法を行っている
粉瘤治療は皮膚科でも行われ、多くの人は「皮膚のできものだから皮膚科」という認識も持っている方も多いはずです。
もちろん、皮膚科でも「くり抜き法」による粉瘤治療が行われています。ほとんどは皮膚トレパンを差し込むくり抜くやり方です。
そもそも皮膚トレパンを差し込むだけのくり抜き法は、切る必要も縫う必要もないため皮膚科の処置に使われ易く、粉瘤を押し出すだけだと再発も多く起こってしまう上に綺麗に治らない可能性も高まります。
逆にしっかり切って粉瘤を取る切開法は形成外科を含めた外科医の主流になっています。
しかし当院のトレーニングを受けた形成外科医の技術をもってすれば、くり抜き法の小さな穴から粉瘤の再発の元となる袋を取り残すことなく完全に除去する 事は難しい事ではありません。粉瘤が大きくなり、切除に伴い死腔が大きく出血が不安な場合でも、その小さな穴から小さな針と細い糸を使用して止血目的に皮下縫合を行い、真皮縫合まで行う事が可能です。
くり抜き法は比較的軽い処置のレベルで、切開法は大きな手術という認識をされている方も少なくないですが、当院のくり抜き法はくり抜き法の小さな穴から再発しにくい切開法を行う様なハイブリッド手術となっております。これは形成外科専門医が多く勤務する粉瘤専門のクリニックだからこそ実現できる手術です。
適さない部位にも行ってる
しかし注意しなければならないのはくり抜き法は、すべての粉瘤に適しているわけではありません。
例えばおしりや耳周りなど粉瘤が大きくなった後に切除すると皮膚が余ってしまう場所があります。皮膚が余ってダルダルになってしまうことが想定できる場合は、くり抜き法ではきれいな傷になりません。無理にくり抜きで終えようとせず切開法を用いて皮膚を切除する方がバランスよくきれいに治ります。
再発を繰り返す粉瘤に行っている
また何度治療しても再発を繰り返す粉瘤にもくり抜き法は適していません。内容物を圧出し袋まで取り出したつもりでもその奥に粉瘤の原因となる部位があり、切開法で完全に切除しないとその原因を除去できない可能性があるのです。
特にお尻にできた繰り返す数ミリの粉瘤が痔瘻だった経験などもあり、見た目だけでは判定できない難しさが粉瘤にはあります。
過去に皮膚科等で炎症性粉瘤を治療できないと言われたことはありませんか?

また、炎症を起こしている粉瘤に対してもくり抜き法を積極的に選択しています。
一般的に感染を起こし炎症性粉瘤となっている場合は、内容物が細菌感染の温床になるため、一旦内容物を除去するため切開排膿という方法を取り、感染を安定させてから治療を行います。
しかし切開排膿の処置をした場合、まだ残存した袋や内容物に細菌が増殖するため毎日病院を受診し生理食塩水を用いて洗浄をしなければなりません。処置の怖さと痛みを考えると患者様のストレスは計り知れません。
当院のくり抜き法は小さい切開で袋を完全に取り切る手法

そのため当院ではこの切開排膿と同時に粉瘤の袋を除去し根治を目指すのにくり抜き法を用いるのです。
毎日の受診も必要ありませんし、最初から形成外科医の高度な技術で取り切ってしまえば数日で治癒していくのを実感できます。抜糸も1週間でほぼ完了できます。
もし炎症が高度で組織にダメージがある場合は正常に治癒しないため、少し傷を開放して帰ってもらいます。傷んだ組織が壊死しそれ自体が感染を起こすこともあるため、傷を完全に閉じてしまう事で逆に炎症を起こしてしまうのです。その場合は抜糸の期間が2週間に延びますが、毎日の洗浄処置に比べると断然負担が小さいと言えます。
患者さまご希望を最優先にご提案させていただきます

当院での経過を診ていると、炎症性粉瘤に対してくり抜き法を行ってもおよそ9割の方は再発していません。
「できれば切りたくない」「傷をなるべく目立たせたくない」といった患者さまのご希望がある場合にも、状態が適していればくり抜き法を選択肢としてご提案しています。
くり抜き法は切開法に比べやや視野が悪いため、稀に大出血を起こす場合があります。そんな時に形成外科医であれば、瞬時に切開法に切り替え広い視野から止血操作を行い安全に手術を遂行できるのも安心材料かと思います。
粉瘤の見た目や大きさだけでは簡単に治療法を判断できないため、診察時に視診、触診を行い超音波などを用いて深部を確認した上でその方に最も適した方法をご提案しております。
粉瘤くり抜き法の手術手順
くり抜き法は、局所麻酔で行う日帰り手術です。
当院での一般的な流れは以下の通りで、所要時間は15~30分ほど。その場で歩いてお帰りいただけます。
1. 局所麻酔

粉瘤の周囲に麻酔を注射し、手術中に痛みが出ないようしっかりと効かせます。場所によってはブロック麻酔を使って痛みを軽減した上で手術部位に麻酔をします。

2. トレパンで皮膚をくり抜く

粉瘤の開口部を中心に、専用の丸い器具(トレパン)で小さな穴を開けます。穴の大きさは5mm程度が一般的です。

3. 内容物と袋の摘出

中にたまった皮脂や角質を丁寧に取り出し、その後袋(嚢胞)を微細なセッシで把持し、ハサミを使って剥離しゆっくりと引き抜きます。この袋を内容物を含め全てきちんと取り切ることが再発予防のポイントです。

今回は内容物を押し出し、ある程度中身を出して小さくしてから中の袋を取り出します。





4. 洗浄・止血・必要に応じて縫合

取り出し後は患部を洗い、出血がなければそのまま閉じることが多いですが、傷の大きさや部位によっては止血操作、縫合を加える場合があります。
止血にはバイポーラという電気止血器を使用し、内部が死腔(空洞状態)になっている場合は血が溜まりやすいため皮下脂肪同士を縫合して血腫を予防します。
5. ガーゼで保護し、術後説明
創部を清潔なガーゼで保護し、ご自宅でのケア方法・注意点をお伝えして終了です。
術後は強い痛みが出ることはほとんどなく、多くの方が翌日から通常の生活(仕事・家事など)に戻っています。
ただし、入浴や激しい運動などは数日控えていただく場合があります。
粉瘤くり抜き法に寄せられるQ&A
くり抜き法を受けたら、もう再発しませんか?
袋をしっかり取りきれた場合、再発のリスクはかなり低く抑えられます。
ただし、粉瘤が皮膚の深い層に入り込んでいたり、癒着がある場合は袋の一部が残ることもあり、再発の可能性はゼロではありません。
当院では事前診察で粉瘤の状態を確認し、くり抜き法で対応可能かどうか慎重に判断しています。
くり抜き法の傷跡は残りますか?目立ちますか?
くり抜き法では直径5mm前後の小さな穴から粉瘤を摘出するため、傷跡は非常に目立ちにくいのが特徴です。
ただし体質や部位によっては、術後に一時的な赤みや色素沈着が見られることもありますが、時間の経過とともに目立たなくなる方がほとんどです。
くり抜き法による手術は痛いですか?麻酔は効きますか?
手術中は局所麻酔をしっかり効かせてから行うため、痛みはほぼ感じません。
麻酔の注射に少しチクッとした感覚がありますが、処置中は無痛です。術後も軽い違和感や鈍い痛み程度で、強い痛みを訴える方は少数です。
くり抜き法にもデメリットはありますか?
はい、いくつか注意点があります。粉瘤の袋が完全に取り出しにくい構造をしている場合や、炎症で癒着している場合は、くり抜き法では対応しきれないことがあります。
その場合は、切開法のほうが確実かつ安全に取り除けるため、当院では状態に応じて方法を選択しています。
術後、シャワーや入浴はいつから可能ですか?
当日から軽いシャワーは可能です。患部を濡らさないようにガーゼで保護していただければ問題ありません。
ただし、湯船に浸かるのは出血や感染リスクを避けるため、1~2日程度控えていただくようお願いしています。
くり抜き法でも縫ったり縫わない場合もあるのでしょうか?
はい、くり抜いた穴の大きさや粉瘤の深さによって判断されます。
傷が小さく、自然にふさがると判断される場合は縫合しませんが、場所や出血の状態によっては1~2針縫うケースもあります。
切開法とくり抜き法で費用は違いますか?
どちらも保険診療で対応できる手術のため、費用に大きな差はありません。
粉瘤の大きさや処置内容に応じて多少の差が出る場合はありますが、事前に診察時に明確な金額をご説明しますのでご安心ください。
まとめ
くり抜き法は、粉瘤をなるべく目立たない形で取り除きたい方にとって、負担の少ない治療法のひとつです。
小さな傷で済みやすく、術後の回復も早いため、日常生活に支障を出したくない方や、顔・首・おしりなど目立つ部位にできた粉瘤に悩む方にも選ばれています。
ただし、すべての粉瘤がくり抜き法で対応できるわけではありません。
炎症を起こしていたり、粉瘤が大きい場合には、確実に取り除くために切開法を選んだ方が安全で再発も防ぎやすくなります。
当院では、くり抜き法・切開法の両方に対応しており、粉瘤の状態や部位、患者さまのご希望をしっかり伺ったうえで、最適な治療法をご提案しています。
「なるべく傷を残したくない」「痛みやダウンタイムを少なくしたい」「なるべく早く治したい」といったお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。