首にできる粉瘤は、自然には治らず進行することがあります

「首にしこりができた」「数ヶ月変わらずふくらみが触れる」「最近少し痛みが出てきた」――その症状、見過ごさずに診察を受けたほうがいいかもしれません。
首の後ろや髪の生え際、首筋などは、摩擦や皮脂分泌の影響で粉瘤ができやすい部位です。特に、触ると硬さがあり、中心に黒い点があるようなしこりは、炎症を起こす前に取り除くのが望ましいケースも少なくありません。
この記事では、首にできやすいしこりの部位や原因、他の疾患との違い、どの治療法が選ばれるのか、どこを受診すればよいか、費用はどれくらいかかるのかなど、実際に受診を検討している方の疑問に答える内容をまとめています。
首にできやすい粉瘤の位置と原因
首にできる粉瘤には、いくつかの好発部位と共通の発症要因があります。
首の後ろ(首裏)・髪の生え際

首の後ろや後頭部の髪の生え際は、皮脂腺が多く汗もかきやすいため、毛穴が詰まりやすい部位です。さらに、衣類の襟やマフラーが頻繁に触れることで、皮膚への摩擦・刺激が生じやすくなります。こうした慢性的な外的刺激は、皮膚のターンオーバー(角化のサイクル)を乱し、老廃物の排出を妨げる要因になります。
また、髪の毛やスタイリング剤、シャンプーのすすぎ残しなどが皮膚に残ることでも毛穴が塞がれ、皮膚内部に角質や皮脂が溜まりやすくなります。これが袋状の構造を形成し、粉瘤へと発展することがあります。
首の横・首筋

首の側面や首筋は、日常的にシャツの襟やスカーフ、髪の毛がこすれる部位であり、外部からの摩擦や圧迫が加わりやすい環境にあります。こうした慢性的な物理的刺激は、皮膚のバリア機能を弱め、毛穴の閉塞や角質の異常な蓄積を引き起こしやすくなります。
さらに、汗や皮脂がたまりやすい上に、皮膚の折れ曲がりやすい構造のために蒸れも生じやすく、皮膚常在菌のバランスが崩れることで、炎症性の粉瘤を誘発するリスクもあります。
首の前・首下

顎の下から鎖骨にかけての首の前面は、皮脂腺が多く皮膚も柔らかいため、粉瘤が発生しやすい部位のひとつです。特に顎下は汗や皮脂がこもりやすく、毛穴の閉塞によって老廃物が皮下に溜まりやすい環境にあります。
さらに、マスクやネックレスの着用によって物理的な刺激が繰り返されると、毛穴や皮膚構造に微細な損傷が起き、嚢胞形成の引き金になることがあります。ここにできた粉瘤は視認性が高く、人目につきやすいため、整容的な悩みに直結しやすいのも特徴です。
首にできる粉瘤の症状とは
首にできた粉瘤(アテローム)は、発症初期には目立った痛みや腫れがなく、小さなしこりとして皮膚の下に触れる程度です。しかし、時間の経過とともに袋の中に角質や皮脂が蓄積され、少しずつ大きくなっていきます。首という常に動きや摩擦のある部位では、粉瘤が炎症を起こしやすく、進行とともにさまざまな症状が現れるようになります。
黒い点・塊ができる

粉瘤の代表的な初期症状として、皮膚表面に小さな「黒い点」が見られることがあります。これは嚢胞と皮膚表面をつなぐ開口部(ポア)であり、外界とつながった孔から内部の老廃物が排出されることもあります。この黒点が詰まりやすくなると、内部に内容物が蓄積し、徐々にしこりが大きくなる原因になります。
皮膚の下にはゴムのように弾力のある可動性のある塊が触れ、痛みがない場合でも「何かができている」と感じるきっかけになることが多いです。表面上は目立たなくても、皮膚の奥で確実に進行していることがあるため、軽視は禁物です。
腫れ(炎症)・化膿・押すと痛い・かゆみ
粉瘤は、皮膚の表面に開口部があるため、そこから細菌が侵入すると急速に炎症を起こすことがあります。この状態を「炎症性粉瘤」と呼び、しこりが赤く腫れ上がり、押すと鋭い痛みを感じるようになります。特に首まわりは動きが多いため、炎症部分が衣類とこすれたり、日常動作で刺激されやすく、痛みが強く出る傾向があります。
炎症が進行すると内部に膿がたまり、患部は熱を持ち、皮膚が張ったように感じられることもあります。ヒリヒリとしたかゆみが先行症状として出現し、その後に急激な腫れや発赤へとつながるケースも少なくありません。炎症を繰り返すことで皮膚や周囲組織に硬化や色素沈着が残ることもあるため、早めの処置が重要です。
しこり・触ると硬い
粉瘤は炎症がない状態でも、皮膚の下にしっかりとしたしこりとして存在します。触るとコリコリとした弾力のある硬さがあり、可動性があるのも特徴のひとつです。首は皮膚が薄く、筋肉や骨との距離が近いため、比較的小さな粉瘤でも外見上目立ちやすく、見た目を気にされる方も少なくありません。
しこりは時間の経過とともに徐々に大きくなっていき、炎症を起こさなくても数ヶ月~数年かけて成長していく傾向があります。初期には見た目の変化が少ないため放置されやすいのですが、自然に小さくなることはなく、症状がないうちに摘出しておくことで炎症や再発を予防できます。
中身が破裂・膿、血が出る

粉瘤がある程度の大きさまで進行すると、圧迫や炎症をきっかけに皮膚が破れ、内部に溜まった内容物が外へ排出されることがあります。排出されるのは、皮脂や角質が混ざった白く粘り気のある泥状の物質で、独特の悪臭を伴うのが特徴です。炎症が強い場合には膿や血液が混ざることもあり、衣類に付着して気づくケースもあります。
しかし、破裂して内容物が出たからといって完治したわけではなく、皮膚の奥にある袋状の構造(嚢胞)が残っている限り、再発する可能性は非常に高くなります。破裂後の皮膚は感染しやすく、炎症が長引いたり、傷跡が目立ってしまうこともあるため、できるだけ破れる前に医療機関での適切な処置を受けることが望まれます。
首にできる粉瘤に似たできものとの違い・見分け方
首にしこりができた場合、それが必ずしも粉瘤とは限りません。他の良性腫瘍や炎症、内臓に関連する腫れの可能性もあるため、以下の疾患との違いを知っておくことが大切です。
ニキビ・角栓
首まわりは皮膚が薄く、汗や皮脂の分泌量も比較的多いため、毛穴の詰まりからニキビや角栓が生じやすい部位です。特にシャツの襟や髪の毛、マフラーなどが触れることによる摩擦や蒸れは、皮膚のバリア機能を弱め、皮膚トラブルを引き起こす要因になります。
ニキビや角栓は毛穴の浅い部分で起こる一時的な炎症や詰まりで、多くは数日から1週間程度で自然に軽快します。炎症が起きた場合も腫れは小さく、しこりとして残ることはまれです。角栓もスキンケアや洗浄で改善が期待できるため、外科的治療を必要とするケースはほとんどありません。
唾液腺腫瘍
唾液腺腫瘍は、耳下腺や顎下腺、舌下腺などの唾液をつくる組織に発生する良性あるいは悪性の腫瘍です。特に首の横や顎の下にできるしこりは、粉瘤と誤認されることがありますが、触れたときにより深い層にあるような感触があるのが特徴です。
唾液腺腫瘍は、通常はゆっくりと成長しますが、悪性の場合には短期間で急激に大きくなることや、痛み、しびれ、皮膚のひきつれなどの症状を伴うことがあります。また、食事や会話といった唾液の分泌が活発になるタイミングで腫れが目立ちやすくなる点も、粉瘤との大きな違いです。
リンパ節炎
リンパ節炎は、風邪やインフルエンザ、口内炎などの炎症、またはウイルス・細菌感染をきっかけに、首のリンパ節が腫れて炎症を起こす疾患です。粉瘤と異なり、しこりは比較的浅く、柔らかい触感であることが多く、押すと強い圧痛を伴うのが特徴です。
腫れは片側だけでなく、左右両側に現れることもあり、全身症状として発熱や倦怠感、関節痛を伴うこともあります。数日~1週間程度で自然に軽快する場合もありますが、細菌感染が強いと化膿して膿瘍化することもあります。
甲状腺腫瘍
首の前側、喉ぼとけのすぐ下あたりにしこりを感じる場合は、甲状腺に腫瘍ができている可能性があります。甲状腺腫瘍には良性と悪性があり、多くはゆっくりと成長しますが、進行に気づきにくいため注意が必要です。
粉瘤が皮膚のすぐ下にできるのに対し、甲状腺腫瘍はやや深い位置にあり、触れるとしこりに動きが少なく、硬さも粉瘤とは異なります。また、大きくなると気道や食道を圧迫し、飲み込みにくさや呼吸のしづらさを感じることもあります。
がん
首にできたしこりの中には、皮膚がんやリンパ腫、転移性腫瘍など、悪性腫瘍が原因となっているケースもあります。粉瘤と見た目が似ていることもありますが、がんは短期間で急激に大きくなる、しこりが硬くて動かない、出血や潰瘍を伴うといった特徴があり、性質はまったく異なります。
また、皮膚の色調が不自然に変化したり、しこりの表面がただれてくる場合は、良性疾患ではなく悪性の可能性を強く疑うべきです。全身の体調不良や体重減少などが伴う場合もあります。
首の粉瘤の治し方|薬では根治しません
粉瘤は、皮膚の下に嚢胞(のうほう)と呼ばれる袋状の構造ができ、そこに皮脂や角質が溜まっていく良性の腫瘍です。見た目はニキビや脂肪のかたまりのように見えることもありますが、抗生物質や塗り薬ではこの袋自体を除去することはできません。
一時的に腫れや炎症が引いたとしても、袋が残っていれば再発を繰り返す可能性が高く、最終的には手術による摘出が唯一の根本治療となります。首は皮膚が薄く、動きも多く、見た目にも影響が出やすい部位のため、症状の程度や発生した位置に応じて最適な手術法が選択されます。
くり抜き法(トレパン法)
粉瘤の中心に小さな穴を開け、専用の器具を使って内部の内容物と袋を取り除く手術方法です。切開範囲が非常に小さく済むため、術後の傷跡が目立ちにくく、首や顔など露出部位に適しているのが大きな特徴です。ダウンタイムも比較的短く、再発率も低く抑えられるため、炎症のない小さめの粉瘤に対して積極的に選択されます。
切開法(通常の摘出手術)
皮膚を切開し、嚢胞を目視で確認しながら丁寧に摘出する方法です。炎症が強く膿が溜まっている場合や、粉瘤が大きい、再発を繰り返しているなどのケースではこの方法が適しています。術後に縫合を必要とする場合もありますが、首のシワの流れに沿った切開ラインを選ぶなど、できるだけ傷跡が目立たないよう配慮されます。
どちらの方法も局所麻酔で対応できる日帰り手術が可能で、術後は自宅で過ごせるケースがほとんどです。早期に治療を受けることで炎症や傷跡のリスクを最小限に抑えることができます。
首の粉瘤の手術費用はいくらかかるのか?
粉瘤の手術は健康保険が適用されるため、自己負担3割の方であれば、比較的安価に治療を受けることができます。
例えば、直径2~3cm程度の粉瘤であれば、診察・局所麻酔・手術処置込みでおおよそ5,000円前後が目安となります。ただし、部位・大きさ・処置内容によっては料金に差が出るため、詳細は診察時に確認するのが安心です。
首にできた粉瘤に寄せられるQ&A
Q. 首の粉瘤を治すには何科を受診したほうがいいのでしょうか。皮膚科でお薬をもらいましたが治りません
A. 粉瘤は皮膚科でも診察できますが、袋ごと取り除く外科的処置が必要なため、形成外科や外科、粉瘤を専門とするクリニックの受診がおすすめです。薬だけでは治らず、繰り返すリスクがあります。
Q. お風呂上がりに首を拭いている時に粉瘤らしきものを自分で潰してしまいました。このまま放置してもいいのでしょうか
A. 粉瘤を潰すと一時的に内容物が出て小さくなったように感じますが、皮膚の下に袋が残っていれば必ず再発します。感染や炎症を引き起こすこともあるため、なるべく早く医療機関を受診してください。
Q. 首の後ろの粉瘤手術後にお風呂で貼られていたテープが剥がれてしまいました。剥がさないように言われていたので不安です。大丈夫でしょうか?
A. 術後の創部は雑菌が入りやすいため、保護が重要です。テープが剥がれてしまった場合は、清潔なガーゼで覆い、可能であれば早めに医療機関を再受診しましょう。
Q. 首の後ろに粉瘤があると神経を圧迫して何か悪影響ありますでしょうか?
A. 粉瘤は基本的に皮膚の浅い層にできるため、神経に直接影響を与えることは多くありません。ただし、まれに大きくなって周囲の組織を圧迫することはあり、違和感や痛みを伴うようであれば早めに受診してください。
まとめ
首にできる粉瘤は、初めは小さなしこりとして気づかれることが多いものの、放置すれば徐々に大きくなり、炎症や化膿を繰り返す可能性があります。特に首は皮脂腺が多く、衣類や髪の毛との摩擦も受けやすいため、粉瘤が悪化しやすい部位といえます。
薬では根本的な治療はできないため、しっかりと袋ごと摘出する手術が必要です。当院では形成外科専門医が丁寧に診察を行い、患者さまの状態に応じてくり抜き法や切開法など、最適な治療方法を選択しています。
しこりが気になる、再発を繰り返している、手術が必要か判断がつかない-そんなときは一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。首という目立ちやすい場所だからこそ、見た目や再発リスクに配慮した治療をご提案いたします。